約24時間周期の転写産物リズムを生み出す新たな転写後調節A-to-I RNA編集

吉種光
(東京大学 大学院理学系研究科 助教)

2015年12月15日火曜日

共同研究の成果が公開

英国マンチェスター大学のMeng氏らとの共同研究の成果が医学系雑誌JCI (The Journal of Clinical Investigation: Impact factor 13)に掲載されました。
http://www.jci.org/articles/view/82755

地球のダイナミックな環境変化に適応するために、生物は体内に自律振動する時計(体内時計)を獲得しました。この自律振動する体内時計を外界環境のサイクルと同調することにより、明日のサイクルを正確に予知することが可能となり、生存に有利に働いたと考えられています。この24時間周期の時計から、睡眠覚醒リズムや体温リズム、ホルモンリズムなど様々な生理機能にリズム性が見られ、また時計システムの破綻により数多くの疾病が引き起こされることがわかっています。グローバル化社会における頻繁な時差ぼけや、国内においてもシフトワークを原因とする現代病は、その疾病の分子レベルでの理解とそれに基づく根本的な治療法の確立が求められています。

我々はこれまで、マウスを実験材料に時計システムの分子レベルでの理解に取り組んできました。振動の分子骨格は、時計遺伝子の転写翻訳を介したフィードバックループです。転写因子CLOCKとBMAL1がE-boxと呼ばれる時計シスエレメントに結合すると、一群の遺伝子の転写が活性化され、その中に含まれるPerやCryなどの時計遺伝子は、転写翻訳されるとCLOCK-BMAL1複合体に結合して、自らの転写促進活性を抑制します。このシンプルなフィードバックがどのような仕組みで24時間という長い周期のリズムを正確に刻むことができるのか、またこのフィードバックループからの機能出力がどのような局面で活躍しているのかに注目が集まっています。

今回我々は、E-boxの制御下に軟骨のマスター遺伝子Nfatc2が存在することを見出しました。実際、軟骨においてNfatc2はリズミックなmRNAリズムを示し、Bmal1-KOによりそのリズムは停止し、発現量が低い状態で一定になりました。マスター遺伝子のリズムのより、その下流の軟骨形成/維持にかかわる遺伝子群にもリズム性が見られ、これまで知られていなかった軟骨機能とリズムの融合研究がスタートしました。Bmal1-KOマウスは全身で様々な機能に異常が見られ、体のサイズが小さく、早老症で寿命も顕著に短いことが知られています。今回我々は、軟骨においてのみBmal1を欠損したマウスを作製し、このマウスは正常な睡眠覚醒のリズムが見られ、多くの臓器のリズムは正常であることを確認しました。しかし面白いことに、軟骨においてのみ時計のリズムが停止することにより、生後数ヶ月という若さで、老化で見られる軟骨細胞の脱落が観察されました。いわゆる骨関節炎(AO)を発症しています。実際に、骨関節炎に苦しむヒトのサンプルにおいてもBMAL1の低下が確認されたことから、老化に伴う時計機能の破綻は睡眠障害だけではなく、軟骨機能の維持にも障害を与え、関節痛のきっかけとなり得ると考えています。

このようなリズムという目線での軟骨機能の分子的な理解は本研究が初めての例であり、今後、リズムからの出力に注目した創薬ターゲットの開発や新たな治療法の提案につながると期待しています。